所得控除を増やして節税対策
個人事業で節税をする際、備品の購入などでは何十万円も経費にするのは難しく、パソコンなどを購入したとしてもせいぜい10万円程度の経費にしかなりません。
また、手元にお金を残すには事業で利益を出して税金を払うしかないため、経費を増やして事業所得の部分を減らす節税対策をしても結局はお金の残らない結果になってしまいます。
一方、事業所得は増やしつつも事業主個人に適用される所得控除を活用すれば、数十万円単位で控除額を増やせるので高い節税効果が期待できます。具体的には、小規模企業共済や国民年金基金、あるいは医療費控除などになりますが、いずれも年度内の年末までに対応しておく必要があります。
- 小規模企業共済(月額7万円、年間84万円)→ 退職金をもらえる
- 国民年金基金(月額6万8千円、年間81万6千円)→ 年金の上乗せ
- 医療費控除(最高200万円)→ 健康上のメリット
- 国民年金(10年追納・2年前納)→ 追納で公的年金が増える
- ふるさと納税 → 謝礼品をもらえる
このほか、年金上乗せのiDeCo「個人型確定拠出年金」もありますが、こちらは「国民年金基金」との組み合わせで限度額が変わり複雑なため、ここでは省略します。
事業での経費や青色申告特別控除の65万円に加え、これら事業主個人に適用される所得控除の金額を多くすることで最終的な課税所得を抑えることができるため、納める税金を節約することができます。
税率の高い高額所得者ほど節税効果が高い
実際の節税効果については、概ね「所得控除額×税率」の金額になります。
例えば、課税所得1,900万円から2,000万円に100万円の所得を増やした場合、この追加の100万円分の所得については所得税率40%、住民税10%で税率50%が適用されるため、約50万円の税金が増えることになります。
逆にいえば、上記のような小規模企業共済や国民年金基金などで100万円分の所得を控除すれば、課税所得が1,900万円から1,800万円に100万円分減るため、50万円の税金が減って節税になるという仕組みです。
節税効果は税率によりますので、税率の高い高額所得者ほど節税効果が高いといえるでしょう。
ただし、国民健康保険料については、各種の所得控除前の金額で計算されるためあまり影響はありません。また、この場合は共済金の掛金などで手元のお金から100万円分の出費が伴うため、単純にそのまま税金で50万円を払ってしまった方が最終的な手元に残るお金は多いはずです。
小規模企業共済に加入して節税対策
個人事業主や会社役員の退職金制度である小規模企業共済を利用すれば、一括での払込みで84万円まで掛金が全額控除されます。加えて1年以内の前納も可能なため、今年分と翌年分を合わせて最大168万円の所得控除を得ることができます。
掛金の限度額は月額7万円ですが、経営が苦しいときには月額1,000円まで減らすこともできるため、柔軟に対応することができます。
→ 小規模企業共済に加入して節税対策
加えて、毎年、春ごろに貸付可能金額の通知が来ますが、すでに積み立てている分のなかから年率1.5%で融資を受けることもできます。
デメリットとしては、長期的に積み立てていくことが前提のため、自己都合ですぐに解約した場合は掛金の80%程度しか戻ってこないことです。ただし、そもそも節税効果の分で税金が安くなるため、掛金の2割程度(所得税10%以上+住民税10%)の節税を見込める場合は加入しても損はないはずです。
・申込み方法
当サイト運営者は税理士の先生が加入している団体で申し込んでもらいましたが、一般的には商工会議所とか金融機関が申込窓口になるかと思います。
兄が地銀の銀行員のため、この小規模企業共済のことを聞いてみたのですが、自治体の共済のことと勘違いしているようで話がまったくかみ合いませんでした。銀行員でもイレギュラーな業務でよく知らないケースが多いと思うので、申し込みの際はパンフレットなどを持参していくとよいかと思います。
できるだけ、まずは委託している税理士さんに相談し、もし対応していないようなら商工会議所へ行った方がよいかもしれません。金融機関での申込みは微妙かと思いますが、どの道、引き落としの設定で銀行に行くことにはなるかと思います。
年金上乗せの国民年金基金へ加入
国民年金の上乗せ分にあたる国民年金基金でも、月額68,000円(年間81万6,000円)まで所得控除の対象になります。加入義務のある国民年金を公的年金とすれば、任意で加入する「国民年金基金」は私的年金にあたりますが、限りなく公的な意味合いの強い年金になります。
→ 国民年金基金は年金額確定の「積立方式」
国民年金基金については、インフレに無力なことと積み立て不足が懸念されていること、そして中途解約ができないなどのデメリットもありますが、現状では解散しても元本以上は返ってくる黒字の状態です。
国民年金や厚生年金などの公的年金は「賦課方式」のため、少子高齢化社会の到来により減額される可能性もあり、平均寿命まで生きても払い込んだ年金の元を取れるかどうかは先行きが不透明です。その点、国民年金基金なら「積立方式」のため、払い込み時点でもらえる年金額が確定するメリットがあります。
国民年金基金は通常の公的年金と同様、全額が所得控除の対象となるので、節税分だけを考えても入っておくメリットは大きいと思います。
医療費控除は最高200万円が所得控除の対象
所得の多い年度にはまとめて治療をすませて医療費控除を活用するのもよいでしょう。
→ 医療費控除の節税効果
最高200万円の控除枠がありますので、歯科治療などで高額な費用がかかる場合は所得の多い年度にまとめて治療した方が節税効果が高いです。当サイト運営者の場合、銀歯をセラミックの歯にしてもらいましたが、健康保険はきかない自由診療だったものの、医療費控除の対象になり節税することができました。
上記の小規模企業共済は「退職金」を増やすためのものであり、国民年金基金は将来の「年金」を増やす目的がありますが、まとめて治療することで健康になれば、将来的な医療費を抑制するメリットがあると思います。
何らかの病院にかかった場合には医療費控除の対象になるかどうかを確認されるとよいでしょう。
国民年金の追納や前納で所得控除を増やす
国民年金については、個人事業で利益が出た年度に年金をまとめて払い込んでおくと社会保険料控除が増えることで節税になります。加えて、将来もらえる年金額が増えるというメリットもあります。
→ 全額控除になる国民年金の追納制度
■追納
さらに、納付が「免除」されていた期間については、「追納」することで過去10年前にまで遡って納付することができます。
■前納
加えて、未納期間や免除期間が全くない場合でも、こちらも事前の申込みが必要にはなりますが、2年間の「前納」制度がスタートしましたので、これから先の2年分の年金保険料をまとめて納付することが可能です。
■後納
今まで保険料を「未納」していた場合など、5年前までさかのぼって「後納」することができるようになりました。(※この「過去5年分の後納」については、平成27年10月から平成30年9月までとなっています。)
ふるさと納税で謝礼品を貰える自治体が多い
ふるさと納税は、本来は住んでいる自治体に納めるべき税金をふるさとに納税するという意味のため、納める税金が安くなるというわけではありません。むしろ、自己負担額の2,000円で多少は高くなってしまうため、節税とは少しニュアンスが違ってきます。
具体的には、ふるさと納税をしたい自治体へ「寄附金」として年度内に前払いすることで、翌年度に住んでいる自治体から請求されてくる税金が減額される仕組みとなっています。
そのため節税対策といえるかは微妙ですが、ほとんどの自治体では何らかの謝礼品が用意されているのが一般的です。
これはあくまで謝礼品であり、感謝の気持ちということになるため、これを金銭的な利益として考えるべきではないのかもしれませんが、建前上はそうであったとしても、高額所得者の場合は謝礼品でかなりな経済的利益を得ることができます。
そのため、ある意味ではふるさと納税も節税対策の一種といえるでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)も全額所得控除の対象
iDeCoも国民年金基金も、積み立てた年金資金を投資に回して増やすという点では変わりありませんが、国民年金基金は全てお任せするのに対し、iDeCoは自分で投資先を決めて運用するという違いがあります。
この「iDeCo」も「国民年金基金」と同様、月68,000円(年間81万6千円)までが全額所得控除の対象となりますが、両方合わせて月68,000円となるため、併用はできるものの控除枠が倍になるというわけではないです。
投資判断に自信がある方は、国民年金基金よりもiDeCoを選択した方がメリットはあるかもしれませんが、元本割れのリスクもあるため注意が必要です。
節税対策するには手持ちの余裕資金が必要
これらの所得控除を増やす節税対策については、共済の掛金や年金の保険料、あるいは医療費などで実際に出費を伴った上での所得控除になります。そのため、青色申告特別控除の65万円や基礎控除、配偶者控除などのように出費をせずに適用されるものではありません。
手持ち資金から身銭を切る必要があるため、経済的な余裕がない場合は節税することができなくなってしまいます。つまり、節税対策をするにもお金が必要ということです。
できるだけ、手持ちの余裕資金を小規模企業共済などに回すことで節税をし、節税することでさらに手持ち資金に余裕が出てきますので、所得控除の限度額に達するまでは可能な限り資金を割り振るべきでしょう。
個人事業にかかる1万、2万円の経費をちまちま積み重ねることも大切ですが、上記のような数十万円単位で全額所得控除の対象となる制度を利用した方が節税効果は高いといえます。