法人の場合、一人会社でも社会保険の強制加入の対象となります。(※昭和24年7月28日保発第74号通知などを参照)
厚生年金や健康保険の強制適用事業所の要件として「常時従業員を使用する国・地方公共団体又は法人の事業所」とあり、役員のみで従業員がいない場合は該当しない気もしますが、一人会社でも事業主の意思に関係なく加入する必要があります。
(1)法人事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用するもの
(2)常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所
けれども、会社設立後も国民健康保険と国民年金のままで済ませている社長さんも多いようです。
最近は少額の資本金でも会社を作れるようになりましたので、会社設立当初は社会保険料を支払う原資のないケースが多いのかもしれません。
法人設立後、なけなしの資本金はもろもろの経費で使ってしまい、売掛金の入金が数か月先ともなれば、社会保険の加入はおろか、自分の役員報酬さえ未払いの状態になるのが普通かと思います。
そのような状況で強制的に社会保険に加入させるともなれば、会社は保険料を未払いの状態でやりすごさざるを得ないでしょうし、役所としても督促に伴う膨大な手間が発生してしまいます。
役所の方としても、資金の少ない会社が無理をして社会保険に加入し、未払い状態になって督促や差し押さえの面倒をおこされるぐらいなら、国民健康保険と国民年金のままで支払ってもらった方がまだましという認識なのではないかと思います。
建前上は強制加入ではあるものの、未加入でも罰則が適用される例はほとんどないのが実際のところです。
けれども、以前までは未加入でもほぼ放置状態でしたが、平成26年あたりから方針が変更になってきており、最近は社保加入への指導が強化されてきています。
国税庁のデータによると、法人税の申告件数が平成26年の時点で約300万法人となっており、その一方で厚生年金の適用事業者数が平成26年で約186万件となってますので、単純に考えれば、差し引き100万法人以上は加入していない計算になります。
休眠法人の申告などもありますので、約300万法人のすべてが適用条件を満たしているわけではありませんが、厚生労働省の調査によると、平成28年8月末の時点で加入逃れの疑いのある事業所が約56万件あるとのことです。
最近はこの加入逃れの疑いのある事業所への指導が強化されてきており、加入指導により適用となった事業所数は、平成22年度の「4,808件」から平成27年度末の「92,550件」で約19倍に急増しています。
このうち、一人会社がどの程度の割合なのかは不明ですが、協会けんぽのデータによると2人以下の数字が非常に多いです。
おそらくは、これまで厚生年金に加入していない会社への指導で「92,550件」が新規に加入することになり、結果として協会けんぽの新規適用事業所数も増えていますが、その内訳として2人以下の部分が非常に多いことを考えると、一人会社でも例外ではないのかもしれません。
以前までとは違い、今後は社会保険を未加入のままでやり過ごすのは困難になってきているものと思われます。
ただ、必ずしも社会保険に加入することが負担になるというわけではなく、加入することで国年・国保よりも安く済むケースもあります。
例えば、個人事業から役員のみで法人成りする時点で仮に1千万円以上の所得があったとしますと、国民健康保険料は間違いなく上限に達してしまうはずです。仮に、国保で年間85万円の保険料とすると月になおすと7万円程度の負担になるはずです。
一方、法人成りをして自分の役員報酬を20万円程度に抑えて会社の社会保険に加入すれば、協会けんぽでの健康保険料は月額1万円程度で済みます。会社負担分と合わせても月2万円程度、年間24万円ぐらいですみますので、会社で社会保険に加入した方が国保よりも60万円程度は安く済ませることができます。
当サイト運営者の場合、法人成りした際の健康保険料については年額50万円程度は安くなったと記憶しております。そんなに安くなって申し訳ない気もしたのですが、「法人なら強制適用」と法律で決まっていますので、特に何の問題もなく安く済ませることができました。
もちろん、役員報酬を低く抑える分、会社に利益が多く残ることになり、法人税の部分での負担が増えますし、健康保険料だけでなく厚生年金の負担なども総合的に考える必要があるかと思います。
特に年金の部分については、国民年金の場合は基礎年金だけですので、どんなに稼いでも保険料が月額16,260円(※平成28年度)ですみますが、厚生年金の場合は上乗せの二階建てシステムのため、所得に応じて保険料が上がっていきます。
役員報酬を引き上げた場合、会社負担分も合わせると月額10万円以上になるケースもあります。
また、一人会社のオーナー社長の場合、厚生年金の会社負担分も自分の会社から払うことになるため、実質的に保険料の全額を自分で負担することになります。
通常のサラリーマンの場合は会社との折半で年金の元がとれるとしても、オーナー社長の場合は平均寿命よりも長生きしないと払い損になる可能性が高いです。
一般的には社会保険に加入した方が負担が重いといわれており、中小零細企業の経営者は加入を嫌うわけですが、上記のように健康保険料が軽減する場合もあります。
健康保険料のほか、年金負担分や将来もらえる年金額、あるいは法人税の負担なども考え、総合的にシミュレーションされてみるとよいでしょう。
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